全固体電池

全固体電池は、機器の性能を飛躍的に向上させる日本の新技術として機械業界で注目を集めています。名の通り、従来は液体だった電解質を固体化して作られた電池で、丈夫で寿命が長い、高速な充放電が可能、形が自由自在に変えられるなど優れた性能があります。

全固体電池はこれまでの電池の常識を覆す「次世代の電池」として各方面で実用化に向けた取り組みが進められています。2023年現在は一部の業界でしか注目されていませんが、電気自動車の普及に伴い5年から10年後には、わたしたちの生活を変える技術として広く普及している可能性が高いです。

このページでは、全固体電池の仕組みや一般的な電池との違いを分かりやすく解説します。全固体電池がわたしたちの生活やものづくりの未来をどう変えてくれるかを、一緒に想像してみましょう。

全固体電池の特徴

全固体電池

全固体電池は、一般的な電池に含まれる「電解質」と呼ばれる液体成分を固体化させて作られた電池の総称です。現在広く使用されているリチウムイオン電池と仕組みや性能が全く異なり、「次世代の電池」と呼ばれています。まずは特徴を理解していきましょう。

一般的な電池(リチウムイオン電池)との違い

電池は、電子を保有するイオンがプラス極からマイナス極へ移動することで電気が発生します。「電解質」はイオンが動き回るプールの中の水のようなもので、イオンが素早く動き回れる性質を持っている、つまり液体でないと機能しないと考えられていました。

リチウムイオン電池はスマートフォンやパソコンなどに使用されている小型で耐久性に優れた電池で、電気自動車や街のインフラなどにも用いられています。リチウムイオン電池には液体の電解質が用いられていますが、その電解質を固体化させようとする取り組みから全固体電池は生まれました。

全固体電池はプールの中の水である電解質を固体化させた電池で、従来の常識からは逸脱しています。固体の中ではイオンは自由に動き回れないと考えられていたためです。

しかし長年の研究でイオンが自由に動き回れる固体の素材が発見されつつあります。液体だった電解質を固体にすることで、電池のあらゆる性能に向上が見られるとし、実用に向けた実験が進められています。

全固体電池の6つの特徴

全固体電池の特徴を6つにまとめて紹介します。

【全固体電池の特徴】

  • 安全性が高い
  • 形状を自由に変えられる
  • 小型化、大容量化が可能
  • 丈夫で寿命が長い
  • 高速な充放電ができる
  • バッテリーコストの低減につながる

従来の電池と異なる性能や全固体電池の仕組みをもっと詳しく見ていきましょう。

安全性が高い

液体の電解質は材料に有機溶剤系の材料を使用するため、液漏れや発火・破裂が生じる危険性があります。対して全固体電池は液漏れや発火しにくい性質を持っているため、より安全に使用できるといえます。

形状を自由に変えられる

電解質を固体化することで、構造や形を自由に変えられるようになります。従来の電池が決められた形をしているのは、液体の電解質は危険な物質を含んでいるので液漏れを防止するには丈夫な容器が必要だったためです。

液漏れの心配がない全固体電池では、箱型のような決められた形は必要なくなります。薄くしたり、折り曲げたりいろんな形の電池が誕生することで電子機器の自由度も格段に上がると予想されます。

小型化、大容量化が可能

形状が自由ということに加えて、小型化や大容量化も可能になります。従来のリチウム電池では電池の大きさとエネルギー容量は比例する傾向にありましたが、固体化させてエネルギー密度を高めることで、小型でもエネルギー容量の大きな電池が生まれました。

丈夫で寿命が長い

液体部分が固体になることで、電池の強度が増すのもメリットの一つです。丈夫で変形しにくくなり、電池の寿命が長くなります。また、熱や圧力の変化にも強いので、あらゆる環境で電池が使用できるようになります。

高速な充放電ができる

全固体電池は高速な放電・充電ができます。液体の電解質は低沸点・高揮発の性質、つまり蒸発しやすい性質を持っていて、温度が高くなりすぎると性能が維持できません。そのため、運転限界温度と呼ばれる基準が定められ、電解質の温度が高くなりすぎないように機器を動かす必要がありました。

液体が固体になることで、運転限界温度が高まり、急速な充電にも耐えうる性能が加わりました。優れた充放電性能は充電時間の短縮や電池の出力向上に寄与します。

バッテリーコストの低減につながる

液体電解質を用いた電池には、副反応を防ぐために正極(プラス)と負極(マイナス)それぞれに使用される物質に制限があります。しかし、固体電解質を用いることで、副反応が少なくなるため、物質の制限が弱まりさまざまな材料の組み合わせが可能になりました。

よりコストを抑えた材料や、エネルギー密度の高い材料を選ぶことで、バッテリーコストが低減すると予測されます。

全固体電池の実用化に向けた取り組み

全固体電池

優れた性能を持つ全固体電池ですが、2023年現在はまだ実用化に至っていません。電解質を固体にすることで、正極と負極の間を移動するイオンの抵抗が高まり、電池としての出力をあげるのが難しいからです。

現在は電気自動車メーカーや化学・電機・部品メーカーによって、形状や物質の異なるさまざまな全固体電池の試作や、実用化に向けた実験が進められています。

富士経済による「全固体電池市場の市場規模予測」では、電気自動車の普及により全個体電池の市場規模が拡大し、2030年には3000億円前後、2035年には2兆7877億円に達すると予想されています。全固体電池がリチウムイオン電池に代わる「次世代の電池」として普及する日が来るのもそう遠くはないかもしれません。

全固体電池がものづくりの未来を変える

全固体電池

このページでは、「次世代の電池」として注目されている全固体電池の特徴や性能を紹介しました。高耐久・高出力・大容量で、安全性が高く応用範囲が広い全固体電池はものづくりの未来やわたしたちの生活を変える技術である可能性を秘めています。実用化に向けた取り組みから今後も目が離せません。

YSSブログでは、他にもこういった「ものづくり知恵袋」をはじめ、今後もさまざまな気付きを発信してまいります。どうぞお楽しみに!

参考:「全固体電池」をやさしく解説、従来の電池との違いや種類・トヨタらの実用例は?全固体電池全固体電池とは