フッ素樹脂

フッ素樹脂は熱に強く、水や油をはじく素材として衣類や自動車や調理器具などの加工やコーティングに使用されています。食材がくっつかずに、調理がしやすく洗いやすいとされるテフロン加工のフライパンもフッ素樹脂コーティングされた代表的な製品の一つです。

便利で機能的な一面があるフッ素樹脂加工のフライパンですが、ネットやSNSで「フッ素加工は身体に影響がある」「毒性があって禁止されている」などという情報を目にしたことがありませんか? 一部のフッ素化合物の有毒性が認められているのは確かですが、フッ素全体が危険であるような噂で、不安を過度にあおっている状況が見受けられます。

今回は、フッ素樹脂コーティングが危ないと噂される背景に着目し、情報の真相やフッ素加工に関する誤解をわかりやすく紐解いていきます。

フッ素樹脂加工のフライパンに関する誤解

フッ素樹脂

フッ素樹脂加工は、熱に強く水や油をはじくフッ素化合物で表面をコーティングすることを指します。一般的に「テフロン加工」という名前で認知されているのは、フッ素樹脂コーティングされた製品の商品名です。

マーブルコート、ダイヤモンドコートなどという商品名もありますが、これらの商品もフッ素樹脂が用いられています。ホットプレートや炊飯器などの他の調理器具にも使用されている物質です。

一部で「身体に有害」とされているのは、フライパンを使用しているうちにコーティングがはがれ、はがれた物質が身体に入って蓄積されるから、という理由ですが、これは正しい情報ではありません。噂の背景や危険性について詳しく見ていきましょう。

「フッ素樹脂加工のフライパンが危ない」の噂の背景

フッ素は化学式でFで表される化学物質です。フッ素と炭素が結合してできた化学物質が有機フッ素加工物と呼ばれ、海外ではPFASと総称されています。フライパンなどに用いられているフッ素樹脂はPFASの一部です。

フッ素樹脂には様々な種類があり、一部有害性を指摘されている物質があります。発がん性を指摘する研究や、分解されにくい物質として環境保全の視点から使用禁止する条例もあります。PFOS・PFOA・PFHxSなどが禁止されている物質の一例です。

もちろん、全てのフッ素樹脂が禁止されているわけではありません。禁止されているのは一部の物質であるにもかかわらず、「フッ素樹脂は危険」とする側面的な見方が「テフロン加工のフライパンは危険」という噂のもとになっていると考えられます。

フッ素樹脂加工そのものが危険なわけではない

ここまで読んでいくと、フッ素樹脂加工自体が危険なわけでなく、一部有害性を指摘されている物質があるだけ、ということが理解できるかと思います。一般的に調理器具に使用されるフッ素樹脂はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)で、禁止されている物質とは全く別物です。

フライパンに使用されるPTFEの発がん性は指摘されておらず、また、コーティングがはがれて飲みこんだとしても、体内に吸収されることはなく排出されます。したがって、「フッ素樹脂加工のフライパンが危険」というのは、誤った情報ということになります。

ヨーロッパでPFAS規制が行われている理由

フッ素樹脂

フッ素樹脂加工のフライパンに危険性がないことはわかりましたが、ヨーロッパではフッ素樹脂の総称であるPFASの使用が規制されているという事実があります。ここからは、欧州でPFAS規制が行われている理由に迫っていきます。

PFAS自体に毒性はない

先ほども述べたように、発がん性が指摘されているPFASは一部の物質に過ぎず、PFAS自体に毒性があるとは言えません。したがって、ヨーロッパでの規制は人体への毒性とは別の観点で進められていることがわかります。

その別の観点というのが、PFASが極めて分解されにくいという性質によるものです。次の項でさらに詳しく見ていきましょう。

PFAS規制は環境負荷を軽減する視点で行われている

PFASは分解されにくく、環境残留性が高い物質として、欧州では「永遠の化学物質」と呼ばれています。その特性を受け、環境保全や土壌汚染を防止する観点から、2023年2月にデンマーク・ドイツ・オランダ・ノルウェー・スウェーデンでは、PFASの使用を規制する提案が公表されました。

公表を受け、アメリカのPFAS製造メーカーは、2025年末までに製造を中止すると発表、日本でも「PFASに対する総合戦略専門家会議」が立ち上がるなど、各国からの注目が高まっています。

PFAS規制が市場に与える影響

あらゆる業界で幅広く用いられてきたフッ素樹脂素材の規制による社会や経済に与える影響は大きく、化学メーカーでは代替品の開発が急ピッチで進められています。代替の素材開発には多大な時間やコストがかかりますが、高性能な代替品開発に成功すれば、世界中をリードする絶好のチャンスになるからです。

日本では三井化学が先述のPTFEの代替品として「ミペロン」の開発・販売に成功しています。ミペロンは従来のPTFEよりも滑りにくく摩耗しにくい性質を持ち、さらなる長寿命化が実現できるとされています。

まとめ

フッ素樹脂

今回はフッ素樹脂にまつわる2023年の最新情報をお届けしました。「〇〇は危険だ!」というようなインパクトがある情報は、簡単に信用してしまいがちですが、ネットやマスコミの情報は側面的であることも多いです。情報を鵜呑みにせず、広い視野を持ち、自身の判断を基準にして商品を選択することを心がけましょう。

これからの製品開発は、人体への安全性の高さは大前提として、環境に配慮した視点がますます重要視されるようになります。今後も国内外の化学メーカーの動向から目が離せませんね。

参考:「PFAS」規制のインパクトは?フッ素樹脂加工フライパンをめぐる情報を読みときますPFAS規制とフッ素樹脂の安全性