シャルピー/アイゾット衝撃試験とは、試験片に対して高速で衝撃を与えることにより耐衝撃性や靭性(ねばり強さ)を評価するための試験です。自動車のバンパーやスマホケースなど、私たちの生活には衝撃に対する耐久性を必要とする樹脂製品が数多く存在します。シャルピー/アイゾット衝撃試験は、そういった樹脂材料の耐衝撃性や靭性の評価方法の中で、簡単に評価ができる試験の1つです。
衝撃試験の原理・概要
試験には振り子と同じ原理を使用します。切り込み(Vノッチ)を入れた試験片を固定して、ハンマーを一定の高さから振り下ろした後、試験片を打撃した際の衝撃エネルギーを測定し、衝撃強さを求めます。衝撃強さが大きいほど打撃時のエネルギーを吸収できるため、衝撃に対して強い材料ということになります。
振り上がり角度と衝撃エネルギー
衝撃エネルギーは、試験片破壊前後のハンマーの位置エネルギーの差で表されます。
- W = 試験片の破壊で吸収されるエネルギー
- E1 = 試験開始位置のエネルギー
- E2 = 打撃後のハンマー振り上がり位置のエネルギー
空振りをした際のハンマー振り上がり角度と試験片破壊後のハンマー振り上がり角度の差から、試験片の破壊で吸収される衝撃エネルギーが算出できます。しかし、実際はハンマーを振り下ろしたときの空気抵抗やベアリングの摩擦抵抗があるため、簡易補正方法により次の式で試験片の破壊で吸収される補正後のエネルギーWcを算出します。
【簡易補正式】
- Wc = 試験片の破壊で吸収される補正後のエネルギー(J)
- WR = ハンマーの回転軸の周りのモーメント(N・m)
- α = ハンマーの振り上がり角度(°)
- α’ = αから空振りさせた時の振り上がり角度(°)
- β = 試験片破壊後のハンマーの振り上がり角度(°)
【衝撃強さ(kJ/㎡)の計算式】
- a = 衝撃強さ(kJ/㎡)
- Wc = 試験片の破壊で吸収される補正後のエネルギー(J)
- b = 試験片の幅(mm)
- h = 試験片の厚さ(mm)
試験方法について
振子式衝撃試験には3つの試験方法があります。シャルピー衝撃試験、アイゾット衝撃試験、テンサイル試験です。本項では主流であるシャルピー/アイゾット衝撃試験について説明していきます。
シャルピー衝撃試験
対象規格:JIS K 7111-1,ISO 179-1,ASTM D6110
- 試験片の両端を支持し、試験片の中心をハンマーで打撃させる方法。ノッチの反対側を打撃する。
- アンビル(試験片台)に試験片を置くだけなので効率よく試験が可能。
- 衝撃試験の中でも主流。アイゾットと比較するとシャルピー衝撃を採用するケースが多い。
アイゾット衝撃試験
対象規格:JIS K 7110,ISO 180,ASTM D256
- 試験片の片端を固定し、反対側をハンマーで打撃させる方法。ノッチ側を打撃面とする。
- シャルピーに比べ試験手順が多く、作業工数が多い。
- 1999年8月からJIS規格は改定されていない。
- 一部の自動車メーカーでは現在もアイゾットを採用しており、取引のある部品・材料メーカーなどではアイゾット試験を行っている。
衝撃試験機の規格
衝撃試験の規格は、JIS(ISO)・ASTM両方に存在し、それぞれにシャルピー・アイゾットの試験方法が規格化されています。また、衝撃試験機本体の仕様に関する試験機本体の規格も存在します。
規格 | 改正年 | 記載内容 | 規格名 | |
---|---|---|---|---|
JIS | K 7111-1 | 2012 | シャルピー | プラスチック – シャルピー衝撃特性の求め方 |
K 7110 | 1999 | アイゾット | プラスチック – アイゾット衝撃強さの試験方法 | |
B 7739 | 2020 | 衝撃試験機 | 非金属材料振り子形衝撃試験機 | |
ISO | 179-1 | 2010 | シャルピー | Plastics ーDetermination of Charpy impact properties |
180 | 2019 | アイゾット | Plastics ーDetermination of Izod impact strength | |
13802 | 2015 | 衝撃試験機 | Plastics ーVerification of pendulum impact-testing machinesー Charpy,Izod and tensile impact-testing | |
ASTM | D6110 | 2018 | シャルピー | Standard Test Method for Determining the Charpy Impact Resistance of Notched Specimens of Plastics |
D256 | 2018 | アイゾット | Standard Test Method for Determining the Izod Pendulum Impact Resistance of Plastics |
【周辺規格】
規格 | 改正年 | 記載内容 | 規格名 | |
---|---|---|---|---|
JIS | K 7062 | 1992 | ー | ガラス繊維強化プラスチックのアイゾット衝撃試験方法 |
K 7077 | 1991 | ー | 炭素繊維強化プラスチックのシャルピー衝撃試験方法 |
ハンマー・アンビル・試験片の形状
JIS(ISO)とASTMでは、シャルピー/アイゾットそれぞれハンマー・アンビルの形状、試験片サイズなどが定められています。実際のところ、シャルピーのハンマーをJIS(ISO)とASTMで兼用としたりと試験方法は使用する企業や組織団体によって様々ですが、基本的な規格準拠の試験方法を理解しておきましょう。
シャルピー
ハンマーについて
規格 | ひょう量 | 許容摩擦損失 | 衝撃速度 | 衝撃刃の先端角度 | 衝撃刃縁の半径 |
---|---|---|---|---|---|
JIS/ISO | 0.5J | 4% | 2.9m/s(±10%) | 30±1° | 2.0±0.5mm |
1J | 2% | ||||
2J | 1% | ||||
4J | 0.5% | ||||
5J | 0.5% | ||||
7.5J | 0.5% | 3.8m/s(±10%) | |||
15J | 0.5% | ||||
25J | 0.5% | ||||
ASTM | 2.7〜21.7J | ー | 3.46m/s | 45±2° | 3.17±0.12mm |
シャルピーのハンマーは、上記表の3タイプに分かれます。JIS(ISO)の場合、衝撃速度によりハンマー長さが変わります。例えば、4Jと7.5Jで試験をしたい場合はハンマーが2本必要になります。また、JIS(ISO)とASTMのハンマーでは衝撃速度や打撃刃の形状などが変わりますが、兼用されることも多いです(※厳密には規格準拠とは言えません)。
アンビルについて
記号 | 名称 | JIS/ISO | ASTM |
---|---|---|---|
ー | 試験片の長軸と平面との平行性 | ±4/1000 | ー |
R2: | 支持台の曲率半径(mm) | 1±0.1 | 3.17±0.12 |
θ2: | 支持台の逃げ角(°) | 10±1 | 0 |
θ3: | 支持台のすくい角(°) | 5±1 | 0 |
ー | 支持台の角度(°) | 90±0.1 | 90 |
L | 支点間の距離(mm) | 62±(0.5/0) | 101.6±0.5 |
アンビルはJIS(ISO)とASTMで形状が異なるため、両方の試験をする場合は2種類のアンビルを用意する必要があります。
試験片寸法
規格 | 長さ L | 幅 b | 厚さ h | 残り幅 hN |
---|---|---|---|---|
JIS/ISO | 80±2mm | 4.0±0.2mm | 10.0±0.2mm | 8.0±0.2mm |
ASTM | 124.5〜127mm | 3.0〜12.7mm | 12.70±0.15mm | 10.16±0.05mm |
JIS(ISO)とASTMではノッチ深さが異なります。JIS(ISO)では2mm、ASTMでは2.54mm。ASTMは長さL・幅b共に特定の数値ではなく範囲が指定されています。
シャルピーのハンマーの場合は衝撃速度や打撃刃の形状が変わるが、実際はJIS(ISO)とASTMで兼用されることがある。
アイゾット
ハンマーについて
規格 | ひょう量 | 許容摩擦損失 | 衝撃速度 | 衝撃刃の先端角度 | 衝撃刃縁の半径 |
---|---|---|---|---|---|
JIS/ISO | 1J | 2% | 3.5m/s(±10%) | 90±2.0° | 0.8±0.2mm |
2.75J | 1% | ||||
5.5J | 0.5% | ||||
11J | 0.5% | ||||
22J | 0.5% | ||||
ASTM | 2.7〜21.7J | ー | 3.46m/s(3.5m/s) | 22±0.05° | 0.8±0.2mm |
JIS(ISO)とASTMとでハンマーに大きな違いはなく、兼用されることがあります。ただ、厳密にいうと上図の通り打撃刃の形状が異なるため、規格準拠の試験をしたい場合はそれぞれのハンマーが必要です。
アンビルについて
記号 | 名称 | JIS/ISO | ASTM |
---|---|---|---|
ー | 試験片の角度(°) | 90±2 | ー |
ー | 試験片と面との平行性(mm) | ±0.025 | ー |
p2: | 固定台上面の水平性 | ±3/1000 | ー |
θ2: | 位置決め溝と上面の直角性(°) | 90±0.5 | ー |
p3: | 水平方向及び垂直方向での平行度(mm) | ±0.05 | ー |
R2: | 支持側固定端の半径(mm) | 0.2±0.1 | 0.25±0.12 |
アンビルはJIS(ISO)とASTMで形状が異なりますが、大きな違いはなく兼用されることがあります。
試験片寸法
規格 | 長さ L | 幅 b | 厚さ h | 残り幅 hN |
---|---|---|---|---|
JIS/ISO | 80±2mm | 4.0±0.2mm | 10.0±0.2mm | 8.0±0.2mm |
ASTM | 63.5±2mm | 3.0〜12.7mm | 12.70±0.20mm | 10.16±0.05mm |
JIS(ISO)とASTMではノッチ深さが異なる。JIS(ISO)では2mm、ASTMでは2.54mm。アイゾットでは幅bが特定の数値ではなく範囲が指定されています。
アイゾットに関してはJIS(ISO)とASTMとでハンマーとアンビルに大きな違いはなく、兼用されることがある。
打撃方向
ノッチの有無について
通常、ノッチ付き試験片は、硬質発砲材料、長繊維強化材料及びサーモトロピック液晶ポリマーには適さない。これらの場合は、ノッチ無し試験片を適用する。
(K 7111-1.4 引用)
ハンマー選定
衝撃エネルギーがハンマー容量の10~80%に入る、かつ該当するものが複数ある場合はその中で最大容量のハンマーを選定します(※下記表参考)。規格で定められている選定方法について、詳しく見ていきましょう。
ハンマー選定に関係のあるJIS規格
ハンマーの選択方法については各JIS規格の内容に以下の記載があります。
-
◆JIS K 7110:1999(アイゾット)7.3項
「吸収エネルギーは振り子エネルギーの10~80%で行うのが適切である。条件に適合する振り子が2つ以上ある場合にはエネルギーが最大の振り子を用いる。」 -
◆JIS K 7111-1:2012(シャルピー)7.3項
「吸収されるエネルギーは衝撃試験機の衝撃に有効な位置エネルギーの10~80%に入るのが適切である。これらの要求を満たすハンマーが複数ある場合は最も大きな容量を用いる。」最大容量のハンマーを選ぶ理由は、サンプルを打撃する際の「衝撃速度」に関係します。シャルピー・アイゾットともに、衝撃速度が規格で定められており、ハンマー容量が変わっても規格に定められた衝撃速度で試験をする必要があります。
※JIS B 7739(アイゾット・シャルピーとは別に衝撃試験機の「装置」に関する規格)参照 -
◆(衝撃試験機)JIS B 7739:2011附属書C
シャルピー衝撃試験における振り子の打撃速度と衝撃エネルギーとの関係
横軸が衝撃エネルギー、縦軸が衝撃速度、曲線(グラフ内)がそれぞれのハンマーの10~80%の範囲を表しています。例えば、衝撃エネルギーが1Jの時はそれを満たすハンマーが2J、4J、5J、7.5Jの4つになります。
同じハンマーでも、サンプルの衝撃エネルギーが大きくなるほど打撃後の速度が遅くなります。グラフ内の赤の帯線部は衝撃エネルギーを満たす最大のハンマーの範囲を示し、この帯線部の速度範囲であれば、それぞれ衝撃直前→直後の減速が5~10%以内になります。つまり、衝撃エネルギーに対して太線が示すハンマーを使用すれば、常に減速が5~10%以内となる=ほぼ同じ衝撃速度(衝撃直後の速度)で試験ができます。
上記の理由で、衝撃エネルギーが容量の10~80%以内に入るハンマーでかつ、それが複数ある場合は衝撃速度が規定の範囲に収まる最大秤量のハンマーを用いるのが基本ルールです。
各容量の衝撃速度
シャルピー:2.9m/s(0.5J、1J、2J、4J)、3.8m/s(7.5J、15J、25J)
アイゾット:3.5m/s(1J、2.75J、5.5J、11J、22J)
ハンマーの選定表
上記のJIS規格に準拠したハンマーを選定します。
試験方法 | 容量 | 衝撃エネルギー(10〜80%) | 対応できる衝撃強さ(kJ/㎡)の範囲 (断面積32㎟の時) |
---|---|---|---|
シャルピー | 0.5J | 0.05〜0.4J | 1.563〜12.5 |
1J | 0.1〜0.8J | 3.125〜25 | |
2J | 0.2〜1.6J | 6.250〜50 | |
4J | 0.4〜3.2J | 12.5〜100 | |
5J | 0.5〜4J | 15.625〜125 | |
7.5J | 0.75〜6J | 23.438〜187.5 | |
15J | 1.5〜12J | 46.875〜375 | |
25J | 2.5〜20J | 78.125〜625 | |
アイゾット | 1J | 0.1〜0.8J | 3.125〜25 |
2.75J | 0.275〜2.2J | 8.594〜68.75 | |
5.5J | 0.55〜4.4J | 17.188〜137.5 | |
11J | 1.1〜8.8J | 34.375〜275 | |
22J | 2.2〜18J | 68.75〜550 |
衝撃強さ:試験片サイズL80mm×b4mm×h10mm(ノッチ深さ2mm)として計算。
衝撃強さの計算方法
a = 衝撃強さ
Wc = 試験片の破壊で吸収される補正後のエネルギー(J)
b = 試験片の幅(mm)
h = 試験片の厚さ(mm)
衝撃試験機のアナログ・デジタルの選択について
衝撃試験機にはシャルピーとアイゾットの試験方法の他にアナログタイプとデジタルタイプがあります。
アナログの衝撃試験機は、指針があることによって摩擦損失が大きくなるので、規格に定められている最大許容摩擦損失を超える可能性があります。試験機本体規格「JIS B 7739」では指針の有り無しに関わらず、ハンマーの空振り時の摩擦損失の最大許容値が秤量ごとに定められています(位置エネルギーの0.5%~4%)。「摩擦損失が最大許容値を超えてはならない。超える場合には、試験時の衝撃エネルギーから超えた分を減じる必要がある」と記載されています。摩擦損失の計算は「JIS B 7739 6.7 摩擦損失」に記載があり、計算が非常に手間でややこしいこと、そもそも指針があると摩擦損失が大きく、最大許容値を超える可能性が高くなることから、デジタルタイプ(弊社で言う258-Dや258-PC)の選択をおすすめしています。
デジタルタイプの衝撃試験機
衝撃試験機を導入する際の注意点
- 装置を設置する堅牢な作業台(均等荷重3トン程度)が必要(床置きでも可)
- 搬入経路の確保
装置本体は重量が約150〜800kgなので、人力での持ち運びは台車等が必須です(階段での持ち運びは大変危険なため不可)。搬入経路は台車を転がせるフラットな床面を確保してください。また、エレベーターがない施設の場合、上層階への搬入はクレーン吊りが必要なケースもあります。
安田精機の衝撃試験機
手動タイプ・全自動タイプ・恒温槽付・超低温槽付など、お客様の使用用途に合わせてお選びいただけます。既製品のカスタマイズも行っております。詳細は下記リンクをご覧ください。
その他の衝撃試験
耐衝撃性の試験を行う試験機は、シャルピー衝撃試験機の他にも多数存在します。水道管などに使われている、硬質塩化ビニル管(HIVP)や硬質塩化ビニル管継手(HITS)のなどの衝撃試験には落錘衝撃試験機が使用されます。また、硬質プラスチック、塗膜等の評価には落球衝撃試験機が使用されます。どちらも落錘(重り)の重さや高さなどを変えて試験片に落下させ、耐衝撃性を測定することができます。
落錘衝撃試験機
落球衝撃試験機
自動車の内外装に使用される、メッキパーツの塗装等にはデュポン式落下衝撃試験機が使用されます。この試験機は、塗膜の耐おもり落下性及びプラスチックシートの点衝撃強度を測定します。フィルムインパクトテスターとは、プラスチックフィルム・紙等の振子衝撃あな開け強さを測定するための試験機です。梱包資材(プチプチ)、冷凍食品の容器などの評価に使用されます。
デュポン式落下衝撃試験機
フィルムインパクトテスター
参考規格
- JIS K 7111-1 プラスチック-シャルピー衝撃特性の求め方-第1部:非計装化衝撃試験
- JIS K 7110 プラスチック-アイゾット衝撃強さの試験方法
- JIS B 7739 非金属材料用振り子形衝撃試験機-試験機の検証方法
- ASTM D6110 Standard Test Method for Determining the Charpy Impact Resistance of Notched Specimens of Plastics
- ASTM D256 Standard Test Methods for Determining the Izod Pendulum Impact Resistance of Plastics
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