表面硬度

表面硬度は、文字通り表面がどのくらい硬いかを表す指標で、「H」という単位が用いられます。あまり聞きなれない印象を持つかもしれませんが、わたしたちが普段使うアイテムの中にも表面硬度を測定する試験をされているものが多数あります。

この記事では、製品の硬さの指標である表面硬度にスポットを当てて、身近な製品の表面硬度や表面硬度の測定方法に迫ります(実は、表面の硬度を測定する硬度試験機は、身近なあるモノが使われています!)。「表面硬度のHはどんな指標なのか」「表面の硬さを一体どうやって測定するのか」を予想しながら読み進めてみてください。

表面硬度「H」は傷つきにくさの指標

表面硬度

表面硬度は、引っかき硬度試験によって測定します。これは、日本産業規格(JIS)で定められた国家規格の一つで、正式名称は「塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」です。スマートフォンの液晶保護フィルムやガラス製品のパッケージに、「表面硬度 9H」「最高硬度 10H」と表示されているのを見たことがある人もいるかもしれません。

もう少し詳しく説明すると、「表面の硬さ」は製品をコーティングしている塗装の表面を引っかいて傷がつくかどうかで決まり、どの程度の硬さで引っかかれたときに傷がつくかを示す指標です。

表面硬度の測定方法

鉛筆引っかき硬度試験機

表面硬度はJISの正式名称に「引っかき硬度(鉛筆法)」とあることからもわかる通り、製品を鉛筆で引っかくことによって測定されます。したがって、表面硬度の「H」の単位は、鉛筆の芯の硬さを表しています。

学生時代に鉛筆やシャープペンシルの芯を選ぶ際、「HB」や「B」「2H」などの中から好みの硬さ(濃さ)を選んだ記憶がある方も多いと思いますが、この「H」や「B」は硬さ(濃さ)の単位です。「H」はHARD(硬い)の頭文字、「B」はBLACK(黒い)の頭文字からなり、硬度の単位は数字が大きくなるほど硬さが強まります。

<柔らかい> 6B /  5B / 4B / 3B / 2B / B / HB / H / 2H / 3H / 4H / 5H / 6H  <硬い>

引っかき硬度試験の試験手順

表面硬度を測定する機器は鉛筆硬度試験機(塗膜硬度・塗装強度・鉛筆引っかき試験機)と呼ばれ、多くの製造メーカーで試験が行われています。試験の手順は次の通りです。

  1. 鉛筆の芯を研磨紙に垂直にこすりつけ、芯の先端を平らにする
  2. 鉛筆を塗面に対し45°になるよう取り付ける
  3. 鉛筆の先を製品の表面に当てて、750g(±10g)の加重をかける
  4. 毎秒0.5mm~1mmの速度で7mm以上動かす
  5. 目視で塗膜塗装が取れた引っかき傷ができるまで鉛筆の硬度をあげて試験を繰り返す
  6. 傷ができなかった最も硬い硬度を製品の鉛筆硬度として表す

以上が硬度試験の手順です。試験はおおよその力加減で測定することも可能ではありますが、JISでは専用の機械(硬度試験機)を用いた測定を勧めています。

試験に用いられる鉛筆は、一般的な鉛筆よりも品質のばらつきが少ない「引っかき硬度試験用鉛筆」が使われることが多いです。鉛筆メーカーとして広く知られているMITSUBISHIからも試験用の鉛筆がリリースされています。

身の回りの製品の表面硬度

表面硬度

ここからは、身の回りの製品の表面硬度に迫っていきましょう。鉛筆法で測定された硬度には次のようなものがあります。

【表面硬度(鉛筆法)の一例】
ポリエチレン:4B~6B
多くのプラスチック素材:HB以下
人間の爪:2.5H
一般的な車の塗装:H~4H
ポリカーボネート(一番硬い樹脂):6H
液晶保護ガラス:9H

人間の爪はおよそ2.5Hと言われています。対して、樹脂コーティング(プラスチックコーティング)は爪よりも柔らかいHB以下のものがほとんどです。一番硬い樹脂といわれるポリカーボネートは、6H程度の硬度があり、警備隊や自衛隊のシールド(盾)として用いられることもあります。ガラスはそもそも硬度が高い材料ですので引っ掻き硬度試験でも測定限界の9Hという結果になります。

引っ掻き硬度試験は、塗膜やフィルム表面の耐久性や強度の指標として用いられてきた試験ですが、ガラスや金属のように鉛筆では傷がつかないような硬い材料の硬度の測定はどのようなものがあるのでしょうか。次の章で詳しく見ていきましょう。

表面硬度

硬さを測る試験には、引っかき硬度(鉛筆法)に代表される「引っかき硬さ試験法」以外にも、複数の指標があります。ここではJISに制定されたほかの試験法について紹介します。

【JISに制定された硬さの試験法】
・押込み(静的)硬さ試験法:ピッカース硬さ/ヌープ硬さ/ロックウェル硬さ
・衝撃的押込み(動的)硬さ試験法:ショア硬さ
・引っかき硬さ試験法:引っかき硬度(鉛筆法)

引っかき硬さ以外の2つの試験方法についても簡単に説明します。

押込み(静的)硬さ試験法

押込み(静的)試験法は、ダイヤモンドや圧子と呼ばれる硬い材料を測定したい物体に押し付けて、その部分にできた圧痕(表面が沈んだ深さや表面積など)から硬さを求める試験方法です。

ピッカース硬さ、ヌープ硬さ、ロックウェル硬さなどの名称がついているのは、押し付ける圧子の形状や、測定対象となる圧痕の種類がそれぞれ異なるためです。たとえば、ロックウェル硬さは圧痕の深さを測定するのに対し、ピッカース硬さは圧痕の表面積を測定します。

衝撃的押込み(動的)硬さ試験法

衝撃的押込み(動的)硬さ試験法は、決められた形状・寸法・重量のハンマーなどを物体に衝突させて、そのときの反発する大きさ(高さ)や角度から硬さを求める試験法です。

こぶしで机を叩いたときと、自分の膝を叩いたときをイメージしてみてください。机を叩いたときはこぶしがバウンドしますが、膝を叩いたときはあまりバウンドしないはずです。このように試験対象が硬ければ硬いほど、反発の大きさは大きくなります。

まとめ

硬度試験機

このページでは、表面硬度に関する試験や、そのほかの硬さを測定する試験を紹介しました。多くのメーカーの試験に鉛筆が用いられていることや、「硬さ」には測定法が異なるさまざまな指標があることに試験機のおもしろさを感じていただけたのではないでしょうか? 身の回りの製品がどんな試験をされて手元に届いているかを、これからも少しずつお見せしていきますね。

参考:表面硬度の「H」ってなんだろう樹脂(プラスチック)の硬度とは?試験方法から役立つ情報を解説ご存知ですか? 硬さ試験法 -その1-硬さ試験