2022年12月に機能性フィルムの引っかき硬さに関する規格が新たに制定されました!これまでは機能性フィルムに関する試験方法がなく、塗料の引っかき硬度試験(JIS K 5600-5-4)が流用されてきましたが、新たに試験方法が開発され、JIS制定されました。どのような試験なのか?塗料の引っかき硬度試験との違いは?徹底解説していきます!

「機能性フィルムの引っかき硬さ」概要(原理)

平坦な試験片台に試験片を固定。試験片に対し圧子を90°の角度で取り付け、圧子に荷重をかけた状態で試験片または圧子を一定速度で移動させます。その後試験片を確認し、キズができない最大荷重を機能性フィルムの引っかき硬さとします。

装置の一例
装置の一例

塗膜の引っかき硬度試験(鉛筆法)との違い

  1. 試験片の引っかきジグ

    従来の「色の濃さの異なる鉛筆」に代わり、「先端角90°、先端の球半径0.1㎜のダイヤモンド製の先端部を持つ圧子」を使用する。

  2. キズの定義

    試験片の最表面と表層部の両方または片方に発生し、目視で確認できる「へこ(凹)み又は破壊」とする。

  3. 試験内容

    圧子に荷重をかけ、一定速度で一定の距離を引っかいた後にキズができない最大荷重を引っかき硬さとする。

  4. キズの評価方法

    キズの判定条件を規定。

JIS K 5600-5-4
塗料の引っかき硬度試験
K 7317
機能性フィルムの引っかき硬度試験
引っかきジグ 鉛筆 先端角90°、先端の球半径0.1mmのダイヤモンド製の先端部
引っかき角度 試験片に対し45° 試験片に対し90°
荷重 750g 10gから200gまで10g刻みで必要
速度 0.5〜1.0mm/s 1.5〜2.0mm/s
判定結果 目視 目視(キズの判定条件は規定)
※視認性を高めるため、観察用暗箱や目視判定ジグを用いる方法もある。

塗料の引っかき硬度試験(鉛筆法)を流用する問題

先述した通り、これまで機能性フィルムの引っかき硬さは塗料の引っかき硬度試験(鉛筆法)を流用して評価されてきました。スマホの画面保護シートで、パッケージに「表面硬度9H」などと書かれているのが身近な例です。しかし、引っかき硬度試験(鉛筆法)はあくまでも「塗料」に対する試験。フィルムに適用するのは目的使用外です。また、引っかき硬度試験(鉛筆法)をフィルムに流用することの問題点もいくつかあるとされています。

塗料の引っかき硬度試験(鉛筆法)を流用することによる問題点

  1. 目視によるキズの確認の難しさ

    フィルム表面のハードコート層(塗膜層)を試験する場合、実際は表面のキズでなく、ハードコート界面下の基材フィルムに生じたへこ(凹)みを“キズ”として認識・判定している場合がある。また、判定条件が規定されていないため試験者による結果のばらつきが生じる。

  2. キズの確認に時間がとられる

    鉛筆の芯の黒い跡もついているため、どれがキズなのか非常に分かりにくい。肉眼での確認が困難。

このことから、新規格制定にあたり

目視する条件を規定して誰でも同じようにキズの検知が出来るようにすることが必要だとされました。

規格解説・試験方法

それでは試験内容について詳しく見ていきましょう。まず、試験に必要なものは大きく分けて試験装置、圧子、キズ判定器具の3つです。

試験装置

試験装置は主に試験片取付台、アーム、圧子、試験片取付台又は圧子を水平移動させる駆動装置、ゼロ点調整用バランス、高さ調整及び圧子に垂直に試験荷重を負荷する機構によって構成されるもの。
平坦な試験片取付台に固定した試験片に、圧子によって垂直方向に一定の試験荷重を負荷した状態で、1.5~2.0mm/sの一定の試験速度で10㎜以上移動でき、試験荷重は10gから200gまで10g刻みで試験装置に使用できるものを用いる。

試験装置

圧子

先端角90°±5°、先端の球半径0.1㎜のダイヤモンド製の先端部を持ち、反対側にはおもりの積載部をもつもの。

圧子
圧子の先端

キズ判定方法

キズの表面の有無を目視で確認し、キズが確認できない最大荷重を、その試験の引っかき硬さとして記録します。より視認性を向上させるため、下記のような目視判定ジグや観察用暗箱を用いる方法もあります。

目視判定ジグ(K 7317 付属書B)

下図のような、ハーフミラー、黒ストライプ付きLED、試験片ホルダーで構成される。キズがある場所は照明の反射角度が変わるため、黒ストライプ上にキズが白線として確認可能となる。
黒ストライプからハーフミラーまでの距離、目視位置からハーフミラーまでの距離は共に50mmとする。また、目視位置から試験片ホルダまでは280mmで試験片ホルダーの曲率半径と一致させる。

キズ判定ボックス
キズの見え方
キズの見え方
キズ判定ボックスに用いるラインLEDの例
キズ判定ボックスに用いるラインLEDの例

※目視判定ジグには、株式会社メックの特許技術(特許第7148181号:検査ジグ及び検査方法)を使用しています。

株式会社メック

機能性フィルムの表面検査を行う光学式表面検査装置や工業用照明装置などを手がける神奈川県の検査装置メーカー。

観察用暗箱

試験片と試験者の目の距離が200~500㎜になり、試験片を様々な角度から見られるような大きさ・形状のもの。表面のキズによる光の反射や反射光の輝度の変化をもって「キズがある」と判定する。

観察用暗箱の外観図
観察用暗箱の断面図

試験手順

  • 試験片台に試験片を取り付ける
  • 荷重を載せ、圧子を試験片の表面にゆっくり接触させる。
  • 荷重をかけた状態で、試験片取付台または圧子を1.5~2.0mm/sの一定速度で10㎜以上移動させる。
  • キズの始点・終点に印をつける。
  • キズの観察・判定を行う。キズの確認が出来ない場合は10gずつおもりを増やし、試験を行う。表面のキズが確認できる場合はおもりを10gずつ減らし、キズがつかなくなるまで試験を行う。キズが確認できなかった試験荷重で最も大きい値を、その試験の引っかき硬さとして記録する。

JIS制定の経緯

今回のJIS規格開発は機能性フィルム研究会が主体となり、JIS制定に至りました。機能性フィルムの評価方法については2015年頃から数年にわたり議論され、JISの開発を目指すこととなりました。
2019年にJIS開発の申請を提出し、採択。「機能性フィルムの引っかき硬度に関する機能性フィルム研究会」が発足し、具体的なJIS開発を進めていきました。2022年12月にK 7317として正式にJISとして制定されました。

機能性フィルム研究会

コンバーティング※1に関連した特異技術を有する企業を中心に150社以上が参画する研究会。それぞれの技術を組み合わせて新たな機能や価値を持つフィルムプロダクツを創出することを目的とし、機能性フィルムの研究・開発の情報交換や意見交換などが行われている。

コンバーティング※1:プラスチックフィルム・シートなどの比較的薄い基材に、コーティング、ラミネーティング、プリンティングなどの新たなプロセスを経て、新たな価値を生み出すこと。

参考:KANSAI CONVERTING ものづくり研究会

試験を検討されるお客様へ

弊社は規格の普及のため、試験装置を販売すべく、いち早く製作・販売に着手しました。機能性フィルムの引っかき硬さ試験は、弊社で扱っている鉛筆引っかき硬度試験機(手動タイプ、自動タイプ)に専用の圧子を取り付けることで実施可能です。関連部品の圧子は弊社にて購入いただけます。目視判定ジグはお問い合わせの受付を開始しております。
規格に規定される引っかき速度にも対応できますので、事前にご相談ください。

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