荷重たわみ温度試験とは、プラスチックの耐熱性を測定する試験の1つです。試験片に規定の荷重をかけた状態で温度を上げ、たわみが一定の数値を超えた温度を測定します。電子レンジ対応のプラスチック食器など、身の回りに存在するプラスチック製品の耐熱性はこの試験により評価されています。
プラスチックの耐熱性を測定する試験は荷重たわみ温度試験の他に、ビカット軟化点試験(VST)、ボールプレッシャー試験(BP)という試験方法が存在し、このページではそれぞれの試験内容の詳細を解説していきます。
試験概要・原理
DTUL 荷重たわみ温度試験
参考規格:JIS K7191-1,2,3/ISO 75-1,2,3/ASTM D648
荷重たわみ温度は、プラスチックに3点曲げになるよう荷重をかけた状態で温度を上げていき、既定のたわみ量に達したときの温度(荷重たわみ温度)を測定する試験方法です。
試験機の構成
装置の基本的な構成は上の図の通りです。
負荷装置は曲げ応力負荷枠、温度計、荷重棒、荷重、圧子、試験片支持台で構成されます。荷重棒上部に荷重台を、先端には圧子を取り付け、枠の底部には試験片支持台を固定します。また、加熱槽は120±10°/hの一定割合で昇温可能な制御装置を備えているものを使用します。
試験方法
3点曲げで試験片に規定の応力が発生するように荷重を設定する必要があります。試験片に加える曲げ応力は、基本的に次の条件のいずれかとします(JIS K7291-2より)。
A法:1.80MPa(推奨値)
B法:0.45MPa
C法:8.00MPa
荷重は下記の式で求められます。
FW(フラットワイズ)
EW(エッジワイズ)
測定方法
試験片を支持台に置きます。荷重を乗せて試験片に負荷をかけ加熱槽に入れた状態で、温度を120℃/hの一定速度で昇温します。試験片たわみが規定たわみに達したときの温度(荷重たわみ温度)を記録します。
規定たわみは下記の式で求められます。
FW(フラットワイズ)
EW(エッジワイズ)
VST ビカット軟化点試験
参考規格:JIS K7191-1,2,3/ISO 75-1,2,3/ASTM D648
荷重たわみ温度は、プラスチックに3点曲げになるよう荷重をかけた状態で温度を上げていき、既定のたわみ量に達したときの温度(荷重たわみ温度)を測定する試験方法です。
- 圧子:長さ1.5~3㎜の円柱状、断面積1.000±0.015㎟のもの
- 試験片:厚さ3~6.5㎜、一辺が10㎜以上の正方形 または 直径10㎜以上の円板
- 試験方法:A-50法、A-120法、B-50法、B-120法の4つです。
それぞれに荷重と昇温速度が定められています。
JIS K7206/ISO 306 | ||
---|---|---|
曲げ応力 | 荷重 | 昇温速度 |
A-50法 | 10±0.2N | 50℃/h |
A-120法 | 10±0.2N | 120℃/h |
B-50法 | 50±1N | 50℃/h |
B-120法 | 50±1N | 120℃/h |
BP ボールプレッシャー試験
参考規格:電気用品安全法 「電気用品に用いられる熱可塑性プラスチックのボールプレッシャー温度の登録制度」に関する報告書 B法
先端が直径5㎜の鋼球状になっている圧子を用い、加熱された試験片に20+0/-0.4Nの荷重を1時間加え、凹みの直径が2mmとなる温度を求める試験方法です。
※IEC J60335-1及び電気用品調査委員会A法は、オーブン中で「やじろべえ」ジグを用いて測定するため、上記試験内容とは異なります。
規格一覧表
プラスチックの耐熱性を測定する試験の規格は、JIS(ISO)・ASTM両方に存在し、それぞれにDTUL・VSTの試験方法が規格化されています。また、ボールプレッシャー試験は電気安全法に試験方法が記載されています。
規格 | 年 | 試験方法 | 規格名 | |
---|---|---|---|---|
JIS | K7191-1 | 2015 | DTUL | プラスチック—荷重たわみ温度の求め方–第1部:通則 |
K7191-2 | 2015 | DTUL | プラスチック—荷重たわみ温度の求め方-第2部:プラスチック及びエボナイト | |
K7191-2 | 2007 | DTUL | プラスチック—荷重たわみ温度の求め方-第2部:プラスチック及びエボナイト 附属書A |
|
K7191-3 | 2007 | DTUL | プラスチック—荷重たわみ温度の求め方-第3部:高強度熱硬化性樹脂積層及び長繊維強化プラスチック | |
K7206 | 2016 | VST | プラスチック—熱可塑性プラスチック-ビカット軟化温度(VST)の求め方 | |
ISO | ISO75-1 | 2020 | DTUL | Plastics—Determination of temperature of deflection under load—Part1:General test method |
ISO75-2 | 2013 | DTUL | Plastics—Determination of temperature of deflection under load—Part2:Plastics and Ebonite | |
ISO75-3 | 2004 | DTUL | Plastics—Determination of temperature of deflection under load—Part3:High–strength thermosetting laminates and long–fibre–reinforced plastics | |
306 | 2022 | VST | Plastics—Thermoplastic materials—Determination of Vicat softening temperature(VST) | |
ASTM | D648 | 2018 | DTUL | Standard Test Method for Deflection Temperature of Plastics Under Flexural Load in the Edgewise Position |
ASTM D1525 | 2017 | VST | Standard Test Method for Vicat Softening Temperature of Plastics | |
電気用品安全法 | – | 1986 | BP | 「電気用品に用いられる熱可塑性プラスチックのボールプレッシャー温度の登録制度」に関する報告書 B法 |
IEC | 335-1(3版) | 1991 | BP | 家庭用及びこれに類する電気機器の安全 パート1:一般要求事項 |
塩化ビニル管・プラスチック管関連規格
規格 | 年 | 試験方法 | 規格名・内容 | |
---|---|---|---|---|
JIS | K6742 | 2016 | VST | 水道用硬質ポリ塩化ビニル管 |
K6816 | 2008 | VST | 熱可塑性プラスチック管及び継手-ビカット軟化温度試験方法 | |
ISO | 1452-1 | 2009 | VST | Plastics piping systems for water supply and for buried and above–ground drainage and sewerage under pressure—Unplasticized poly(vinyl chloride)(PVC–U)—Part1:General |
1452-2 | 2009 | VST | Plastics piping systems for water supply and for buried and above–ground drainage and sewerage under pressure—Unplasticized poly(vinyl chloride)(PVC–U)—Part2:Pipes | |
2507-1 | 1955 | VST | Thermoplastics pipes and fittings—Vicat softening temperature—Part1:General test method | |
日本水道協会 | – | 2020 | VST | 水道用硬質ポリ塩化ビニル管検査施工要項 →検査基準はJIS K6742「水道用硬質ポリ塩化ビニル管」による。試験項目にビカット軟化温度があり、JIS K6816の方法で実施する。結果はJIS K6742のビカット軟化温度の性能に適合していることを確認する。 |
JPPFA(塩化ビニル管・継手協会) | AS20 | 2017 | VST | 水道用硬質ポリ塩化ビニル管 →JIS K6742「水道用硬質ポリ塩化ビニル管」の補完規格。試験圧力0.75MPa以下の水道の配管に使用する硬質ポリ塩化ビニル管及び耐衝撃性硬質ポリ塩化ビニル管について規定している。試験項目にビカット軟化温度があり、JIS K6816の方法で実施する。 |
試験条件について
荷重たわみ温度試験(DTUL)
試験片寸法
規格 | JIS K7191-1,2 ISO75-1,2 |
JIS K7191-2 附属書A ISO75-2 |
JIS K7191-3 ISO75-3 |
ASTM D648 |
---|---|---|---|---|
試験方法 | DTUL FW | DTUL EW | DTUL FW | DTUL EW |
試験片寸法 | l=80±2.0mm h=4±0.2mm b=10±0.2mm |
l=120±10mm h=9.8〜15mm b=3.0〜4.2mm |
l=支点間距離より10mm以上長いもの h=4±0.2mm b=10±0.2mm |
l=支点間距離より12.7mm以上長いもの (12.7mmを使用することが多い) h=12.7±0.5mm b=3〜13mm |
支点間距離 | 64±1mm | 100±1mm | 30h±1mm | A法:101.6±0.5mm B法:100±0.5mm |
圧子 | R3.0±0.2mm | R3.0±0.2mm | R3.0±0.2mm | R3.0±0.2mm |
曲げ応力 | A法:1.80MPa(推奨値) B法:0.45MPa C法:8.00MPa |
A法:1.80MPa(推奨値) B法:0.45MPa C法:8.00MPa |
曲げ弾性率の1/1000 | 1.82MPa 0.455MPa |
昇温速度 | 120±10℃/h | 120±10℃/h | 120±10℃/h | 2±0.2℃/min |
※JIS K7191-2 附属書A(2007)で規定されているDTUL EWの試験は、K7191(2015)で削除されています。
K7191-1では、試験片寸法や曲げ応力などはK7191-2及びK7191-3によるとされていますが、基本的にはK7191-2で規定される条件での試験が主流です。
ビカット軟化点試験機(VST)・ボールプレッシャー試験(BP)
VST
BP
規格 | JIS K7206 ISO306 |
JIS K6816 | ASTM D1525 | 電気用品安全法 |
---|---|---|---|---|
試験方法 | VICAT | VICAT | VICAT | BP |
試験片寸法 | 一辺10mm以上の正方板または直径10mm以上の円板厚み3〜6.5mm | 幅:10〜20mm 厚さ:2.4〜6mm 長さ:管は50±5mm |
一辺10mm以上の正方板厚み3〜6.5mm | 一辺15mm以上の正方板厚み3±0.5mm |
圧子 | 長さ1.5〜3mmの円柱状。断面積1.000±0.015㎟ | 長さ3mmの円柱状。断面積1.000±0.015㎟ | 長さ2mm以上。断面積1.000±0.015㎟ | 直径5mm、等級40の鋼球 |
荷重 | A50法/A120法:10±0.2N B50法/B120法:50±1N |
50±1N | 10±0.2N 50±1N |
20N+0/-0.4N |
昇温速度 | 120±10℃/h 50±5℃/h |
50±5℃/h | 120±10℃/h 50±5℃/h |
– |
水道管に関する試験(JIS K6816)
水道管などに使用される硬質ポリ塩化ビニル管は、K6742に試験項目や性能の基準などが規定されています。ビカット軟化温度試験も試験項目の1つであり、試験方法はK6816によるとされています。
また、日本水道協会の「水道用硬質ポリ塩化ビニル管検査施行要項」、塩化ビニル管・継ぎ手協会のAS20「水道用硬質ポリ塩化ビニル管」についても試験はJIS K 6742によるとされています。(K6742には試験方法はK6816による。) それでは試験方法を見ていきましょう。
試験概要
基本的な試験方法はK7206で規定されるB50法のビカット軟化点試験に基づきます。試験片に50±1Nの負荷をかけ、50℃/hで昇温する熱媒体に浸せきさせます。水道管または継手から作成した試験片に、圧子が表面から1±0.01㎜侵入した時の温度を測定し、この時の温度をビカット軟化点温度とします。
※K7206とは異なり、試験前に想定されるビカット軟化点温度より約50℃低い温度まで熱媒体を昇温し、維持しておきます。
試験片寸法 | 圧子 |
---|---|
幅:10〜20mm 厚さ:2.4〜6mm 長さ:管は50±5mm、継手は15〜50mm |
長さ3mmの円柱状。断面積1.000±0.015㎟ |
安田精機の試験機:No.148 ヒートデストーションテスター
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関連製品
参考規格
- JIS K7191-1
- JIS K7191-2
- JIS K7191-3
- JIS K7206
- 電気用品安全法 1986 BP 「電気用品に用いられる熱可塑性プラスチックのボールプレッシャー温度の登録制度」に関する報告書 B法
- JIS K6742
- JIS K6816
- 日本水道協会 水道用硬質ポリ塩化ビニル管検査施工要項
- JPPFA(塩化ビニル管・継手協会) AS20